大熊一夫

トリエステには地域精神保健センターが5ヶ所設置されています。24時間オープンの5つのセンターには、合計で36の個室が用意されています。鍵を使って閉じ込めるのはもってのほか。自宅に一人でおかないほうがよい時、この個室のベッドを利用します。台所に洗濯場にリビングなどがあり、ミシン作業をやってくれる職員もおり、下宿屋の雰囲気に近いといいます。 センターの他に一ヶ所精神科診察治療サービス(SPDC)と呼ばれる8床の入院施設があります。精神科救急病棟です。これが24時間精神救急の受け皿として機能しています。ここには3人の医師と16人の看護師が勤務していますが、平日夜間と休日は統括する精神保健局のすべての医師が交代で担当します。 注目すべきは、トリエステ全体の精神科関係のベッドの少なさです。センター(36床)、SPDC(8床)、大学クリニック(11床: 入院用・デイホスピタル用)を足して、全部で54床です。かつて1,200床を抱えていたマニコミオ(精神病院)が消滅して、それに代わる病床がたった54床にまで減ったのです。これは国際指標の人口1万あたりの数でいえば「万対2.2」。恐らく精神科ベッドが世界で一番少ない都市でしょう。